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第12回: 言語学と翻訳の違いって?
私が大学院で言語学を学び、仕事で翻訳も手がけているという経歴を見て、言語学と翻訳の両方に興味を持っているという読者の方からメールをいただきました。簡単なお返事は差し上げたのですが、今回は言語学と翻訳について少しお話ししてみたいと思います。
言語学といえば文字通り言語について研究することで、2つの言語をうまく置き換える技術が必要な翻訳にも関係があるように思えます。ただ、やはりこの2つは似て非なるもので、私はたまたま両方の経験があるだけ。各分野をつきつめてやるには、それぞれ違った技術が必要となります。
言語学は、あくまでも「学問」です。実社会で仕事に結びつく要素は残念ながらあまりありません。私が大学院で学んだことといえば、英語のみならず世界の言語一般における音声学や統語論など。それを基礎として学んだ上で、社会言語学(文化的要素と言語の関連性)や言語の変化などについて勉強しました。わけのわからない言語の発音記号で書かれた「主の祈り(天にましますわれらの父よ・・・)」を10ほど並べられ、「この中から3つの言語を選択し、その言語が何語かを解け。また選んだ言語が同族の言語ファミリーに属するかどうか、音声学的・統語論敵・歴史言語学的に説明せよ」という問題を与えられ、1週間で解くという恐怖の試験もありました。そして私の卒業論文のテーマは、「第二言語習得における年齢の関連性について」でした(この内容についてはまた機会があるときに)。
私はアメリカの大学院で言語学を学んだため英語が必要でしたが、言語学は日本でも学べるし(学部は少ないですが)、日本語しか知らなくても学べるものです。もちろん、比較研究を行うためには2つ以上の言語を自由にあやつれる方が便利だし、私の通った大学の言語学部も入学条件として「英語以外に何か1つの言語をマスターしていること」(私の場合日本語でOK)となっていました。でも、自分が話せない言葉についての研究をすることだってあるのです。大学の教授たちも、日本語を話せなくとも日本語について私以上に知っていることもあったし、フランス語が全くできない私がフランス語文法について論文を書いたこともあります。
いっぽうの翻訳は、2つの言語を十分に理解していなくては成り立ちません。翻訳に必要となるのは、以前のコラムでも書いたとおり、2つの言語知識、文章力、そして特定の得意分野(業界知識)です。これらは、いくら言語学の研究をしても身に付くものではありません。たまたま言語学者にはバイリンガルな人も多く、サイドビジネスとして翻訳を手がける人も多いでしょう。ただ、私も言語学部を卒業して最初に就いた仕事の業務内容は主に翻訳でしたが、そこで言語学の知識を活用できたかどうかというと、答えはノーでした。
私の知り合いで、「英語が得意なので翻訳の仕事に就きたい。でも英語ができる人は山ほどいて、プラスアルファの能力がないと翻訳もできないだろう」と学生の頃にすでに気づいていたという人がいます。そこで彼女は翻訳の仕事に就くため、まずはコンピュータ関連の技術職に就き、業界経験を積んだあとでその分野の翻訳をはじめました。これこそ、由緒正しい(!?)人生計画と言えるのではないでしょうか。もちろんその彼女は文章力もあったため、翻訳者としての素質がもともと備わっていたというラッキーなケースではありましたが。
翻訳と言語学の違い、少しでもわかってもらえたでしょうか。簡単に言えば、翻訳は「実務」、言語学は「研究」というひとことで片付けられることなんですけどね。私のように、言語学をもともと実社会で役立てるつもりがなかった(単に自分の好奇心を満たすためだけに研究していた)というのであれば、言語学はとてもおもしろいものですが、実社会で仕事をするとなると・・・正直あまりオススメできない進路であることも事実です。もちろん、言語学の世界をつきつめて、言語学者になりたいというのであれば、それはそれですばらしいことなんですけどね。
きょうこ先生へのおたよりはkyoko@careercross.comまで
