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イカとクジラ
執筆者: 三田法子
掲載日: 2006-11-29
親って絶対的な存在だと信じていた。
けど、両親のエゴの狭間で、無理やり大人の振りをさせられた僕らがいた。
自分が子供の頃の願いなんて、両親が円満で笑顔でいてくれることくらいだったように思う。この映画を見終わって、親の離婚問題を意識することなく、成人を迎えられる幸せな子供って世界中にどれくらいいるのだろうと、改めて考えさせられた。自分にとってアンタッチャブルな思い出が少しずつ蘇り、自分の成長過程と両親との関係を振り返るきっかけになった気がする。
監督/脚本を手がけたノア・バームバックの自伝的なこの作品は、全米のマスコミから「驚異的才能の出現」と賞賛され、本年度アカデミー賞脚本賞ノミネートを筆頭に様々な名誉ある賞に輝いた。
ストーリーは4人の家族の崩壊から始まる。1980年代のブルックリン。両親の離婚という最大の危機に直面した16歳の兄ウォルト(ジェス・アイゼンバーグ)と、12歳の弟フランク(オーウェン・クライン)。元人気作家であるという栄光を引きずりながら、大学の講師で食いつないでいる父親バーナード(ジェフ・ダニエルス)は、自分が売れないのを「大衆が愚かだから」と、息子たちに言い訳を続ける。その一方で、人気作家となった母親ジョーン(ローラ・リニー)は、いつまでも思い上がった夫のアドバイスに対し、聞く耳など持たない。両親の亀裂に兆候がなかったわけではない。しかし、やがてくる「離婚」は、ウォルトとフランクには到底受け入れられない唐突な現実だった。
ストーリーが淡々と展開される中、この映画の最大の魅力はウィットに富んだセリフの数々だ。「イカとクジラ」という不思議なタイトルも、ウォルトと母親との関係において「鍵」となる重要な言葉。その他、映画、文学、ロックへのオマージュ満載の演出も見所のひとつだ。ひとつ例を挙げると、作中何度も登場するピンク・フロイドの「Hey You」。
Hey you! Don't tell me there's no hope at all.
(ねえ! もうほんの少しの望みもないなんて言わないで)
Together we stand, divided we fall .
(一緒にいれば頑張れる、だけど別れたらおしまいなんだ)
心の壁をテーマにした「ザ・ウォール」時代のピンク・フロイドの歌を通して、兄ウォルトから、両親への届くことのなかったメッセージ。その都度、切なく響く。
自分には無関係だと思っていた悲劇に直面すると、ショックから怒り、拒絶し、そして苦悩へとその心情は変化する。受け入れたくないという思いに囚われれば囚われるほど、その苦悩から逃れられない状況に追い込まれていく。その呪縛から、少しずつ自分を解放して現実を受け入れていけば、いつかきっと楽になれる。そんな術を身につけることが「大人になる」一歩なのかもしれない。いつしか忘れていた、子供時代の不器用な感覚を思い起こさせる作品だ。
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
公式サイト
http://www.sonypictures.jp/movies/thesquidandthewhale/site/noflash.html
12月2日(土)より、新宿武蔵野館、大阪/動物園前シネフェスタ4
以下、全国順次公開
